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コラム(バックナンバー)

◆「座り心地」って、何だろう?(2009.2月)

 取材の時は、あちこち走り回る僕ですけれど、ふだんは机の前にずーっと座りっぱなし。デスクワーク中心の日々です。

 それだけに、仕事用の「椅子」には、こだわりがあります。
 断然、ライターという僕の仕事に適しているのは「食堂用の椅子」。今も、通販で買った一脚モノの木製ダイニングチェアに座ってます。
 キャスターが付いて回転する事務用椅子や、いわゆる“社長の椅子”なぞ、論外です。

 中でも、欧米製の椅子は違いますねえ…やはり、長年の文化の違いでしょうか。
 大阪の実家のダイニングチェアが、確か北欧からの輸入物。木製ですけど、これが実に僕の身体にしっくりくるのです。
 母親に「これ、1脚くれへん?」と頼んだこともありますが、「なんで、アンタに上げなあかんの」と、にべもなく断られました(笑)



常磐線E501系 さてここで。
 「座り心地が良いか悪いか」を僕が判断している基準の中に、「座面が柔らかいか、固いか」というポイントが無いことは、申し上げておかなければなりません。
 いえ、無いことは無いのですけど、座面が柔らかい椅子(クッション性のいい椅子)=座り心地の良い椅子とは、全く考えていないのです。
 今、座っている椅子も座面はカチカチですし、実家のダイニングチェアなんて座面も背刷りも全部木製ですよ(笑)

 僕の「座り心地が良いか、悪いか」の評価基準は、座面と背刷りの角度が適切で、しっかり身体をホールドしてくれ、長く座っていても疲れないかどうか。それだけです。
 こういうふうに考えるようになった大きなきっかけは、僕が通っていた頃の大阪教育大学附属池田中学校の技術科の先生、直原宏明先生の授業です。
 先生は「椅子の座り心地」について、当時、研究しておられ、かなり長く時間を取って、その成果を授業で教えてくださいました。その時、座面が柔らかいか固いかなんて話は、一切、出てきませんでした。
 要は、椅子の各部分の角度、特に座面と背刷りとの角度と、人間の身体との関係だということ。
 授業の最後には、実際に「座り心地が良い椅子」を各々作るのですが、完全に木製でした。生まれつき手先が不器用な僕は、とんでもない代物を作り上げてしまいましたけど…(^^;)


 そういう“基準”を持っているものですから、鉄道車両の座席に対しても、同じような考え方で評価を下しています。
 例えば、京浜東北線などを走っている209系電車。11月に取材した常磐線のE501系電車も同じ車体、同じ座席ですが、僕はこの電車の座席を好ましく思っています。
 理由は、先ほどの“基準”に合致しているから。
 体格や体型の問題もありますから一般化はできませんけれども、僕の身体には209系、E501系の座席はピッタリなのです。

 ところが、世の評判からいうと、209系の座席は「座り心地が悪い」ということになっているようです。理由は、角度も何も関係なく「固いから」。
 座布団のようにふわふわの座面=座り心地が良い。
 木のように固い座面=座り心地が悪い。
 一般的な評価基準は、そういうふうに、なっているように思われます。
 僕なんか、205系あたりの座席はふわふわしすぎてホールド感がなく、落ち着かないのですけれど。

 これは感覚の問題で、個人差がありますから、一概にどちらが正しいとは言えないでしょう。
 ただ、座布団と椅子は違います。座面の感触だけで座り心地の善し悪しを判断するのは、ちょっとどうかと思うのです。
 お尻だけではなく、身体全体で座り心地を感じてみては、いかがでしょうか。


南海1201系 ちなみに、僕が座ってきたさまざまな鉄道車両の座席の中で、ロングシートに限って言えば、いちばん「座り心地が良かった」と思ったのは、右の写真の南海1201系です。
 昭和初期から戦後にかけて製造された電車で、僕が実際に乗ったのは、水間鉄道や南海貴志川線(現・わかやま電鐵)においてですが、この電車の座面の奥行きの深さ、背刷りのゆったりした角度。いずれも抜群で、ビロードのような深紅のモケットも雰囲気がよく、何時間でも座っていたいと思いました。
 今ではもう、保存車1両だけを残して消えてしまった電車ですが、戦前の、優雅で豊かだった頃の“作品”です。


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