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コラム(バックナンバー)

◆ローカル線の親子(2008.12月)

 最初にお断りしておきます。
 タイトルから想像して「ほのぼのした話かあ…」などと思われたら、ごめんなさい。

ローカル線の親子-イメージ 今年の夏は、珍しく夏休みが取れました。よりによって、お盆の真っ最中に。
 ふだんは土日祝日関係なしの生活ですので、まず、混雑するような休みの日に遠出することはないのですけど、遊べるときに遊んでおかないと、次はいつ休めるかわかりません。すかさず?4日ほど、久しぶりに“仕事関係なし”の鉄道旅行をしてきました。こんなときぐらい、鉄道から離れればいいのに…と思わんでもなかったのですが、これは10代のころからの習性です。

 その3日め。山あいの町の宿に泊まった翌朝。日本でも屈指のローカル線に乗りました。
 1日に数えるほどしか列車が走らないその線でも、さすがはお盆休み。4人掛けの各ボックスが埋まるほどのお客さんが乗っています。ふだんはいないだろう“都会的”な人も含めて。
 僕がいたボックスと通路を挟んで反対側のボックスには、小学校2〜3年生ぐらいの女の子を連れた夫婦が座っていました。
 遊びにきたのでしょう。お母さんは、これから行く観光地について、ガイドブックを開けて熱心に予習していました。
 ところが。
 驚きました。
 お父さんと女の子が何をしていたのかというと。

 「国語ドリル」

 車窓には、絶対、都会では味わえないような山の風景が広がっています。眺めても眺めても飽きることがない、美しい緑の風景です。その線に乗るのは3回目の僕でも、新しい発見がいくつもあり、感動しました。
 なのに、国語ドリルですか。作文の勉強ですか。夏休みの宿題ですか。

 去年。KYという言葉が流行りました。「空気、読め」の頭文字です。この言葉、僕は肯定的に思っていて、嫌いではありません。自分が置かれている状況を敏感に感じ取って、何をすべきかを考えろ。そういう意味ととらえています。
 「KY」
 僕は父親に向かって、心の中でこの言葉を投げかけました。
 国語ドリルは、今しかできないことですか?
 文章を書いてご飯を食べている僕からすれば、お父さんの作文の教え方も滅茶苦茶でしたけど、それよりも何よりも。

 自分の子供には、今、ここでしかできない体験をさせることが、一番、大切なのではないですか?
 今、窓の外に広がっている美しさは、他では感じることができない美しさかもしれませんよ。
 宿題だけが勉強ですか? 子供は、勉強ができたら、それでいいのですか? 心の成長を願わないのですか?

 小さな乗り換え駅に着きました。
 ここまで乗ってきた列車は、お母さんが調べていた観光地の最寄り駅まで直通します。
 しかし、僕を含め、多くの人が別方向へ向かう列車に乗り換えるために降りました。接続時間は長く、小1時間ほどもあります。
 降りた人たちは三々五々、散歩に出掛けたり、待合室でのんびりしたりしています。

 そこへ、お父さんと子供が降りてきました。ジュースでも買うつもりなのでしょうか。乗ってきた列車は2分しか停車しません。
 案の定。
 二人が戻る前に、列車のドアは閉まり、遠慮なく出発していきました。われわれは、のんびりそれを見送ります。ホームまで戻ってきた2人は、茫然とそれを見送っていました…
 空気を読まなかったんでしょうね。車掌にも確認しなかったんでしょうね。
 のんびりしている連中は接続列車を待っていたのであって、決して、乗ってきた列車が長時間、停車する訳ではありません。
 勘違いしたんですね。他の人ががたくさん降りて、のんびりしているので。
 ここがどういう場所で、なぜみんなのんびりしているのか。
 考えなかったんですね?

 次の列車は3時間後です。
 どうするのか眺めていました。
 ほどなく、駅前にいたタクシーの1台が動き出し、走り去りました。目的地までは、15kmほどあるんですけど。

 「KY」
 もう一度、心の中でつぶやきました。
 お父さん。
 しっかり目を開いて、考えて行動しないと、子供が可哀相すぎます。

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