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◆“夜行需要”は「小口化」した(2009.3月)

 今月(2009年3月)13日発の運行を最後として、寝台特急「はやぶさ・富士」が廃止になりました。
 最終日が近づくにつれ、「お別れ乗車」や「お名残撮影」で大いに賑わったと聞きますが、まずは大きな事故などなく最終日を迎えられたようで、何よりです。
 僕自身は、「廃止になるから」といって騒ぐことが嫌いですので、特別なことは何もしませんでした。最終日の13日も、翌日からの出張に備えて早めに原稿を仕上げるのに一所懸命で、東京駅などへは出向いていません。



はやぶさ・富士 東京と九州を結ぶ寝台特急が、これで全廃になるとのことで、今回のダイヤ改正はマスコミでも大いに取り上げられました。
 その際、廃止の理由としては、おしなべて「利用客の減少により」と述べられていました。

 大筋、それはそれで間違っていません。ひとことで言うのなら、そうなりましょう。
 ただ、「ノスタルジー」などの切り口ではなく、「社会現象の一つ」として突っ込んだ報道をするのなら、もう少し掘り下げた、別な言い方があるように思いました。
 やや回りくどいですが、「1本の寝台列車を成り立たせるほどの、まとまった“夜行需要”がなくなった」とでも、言うべきではないでしょうか?


 夜、出発して、翌朝早く目的地に到着する、“夜行”への需要は依然、健在です。睡眠時間を移動に充てられる、朝早くから行動できるというメリットは変わっていません。
 今、その需要に応じているのは「バス」です。
 路線バスと紛らわしい「ツアーバス」の横行など問題は多々ありますが、今でも無数の夜行高速バスが全国を走っています。

 バスは1台が満席になれば、採算は取れると思われます。続行便が常態化している路線もあるようですが、多客期を除いて片道1台で運行という路線の方が多いでしょう。
 つまり、採算を取るのに必要な利用客数は、片道約30人ということになります。

 この数を鉄道のB寝台車に当てはめてみれば、1両の定員にすぎません。
 最短でも6両程度、最長では10数両の寝台車を連結して走っていた寝台列車と比べて、はるかに少ない需要でも「儲かる」のです。
 1992年6月にヨーロッパを巡った時、ストックホルムからハンブルグまで夜行特急「アルフレッド・ノーベル」に乗ったことがありましたが、当日、ホームに上がってびっくり。わずかに寝台車(日本の個室A寝台車相当)1両+クシェット1両(同、B寝台車相当)の2両編成でした。もし日本でも効率上、そんな定員60人ぐらいの編成が許されていれば、まだまだ夜行列車は活躍できたでしょう。


 “夜行需要”自体、新幹線や飛行機の発達で、長期的に縮小傾向にあることは、確かです。無理をして前夜に出発せずとも、早起きすれば、ほぼ同じ時刻に目的地に着けるとなれば、当然です。自宅のふとんで眠れますから。
 鉄道は、まとまった数の旅客を一斉に運ぶのに適した交通機関です。
 “夜行需要”が「小口化」してしまえば、鉄道で対応するのは非効率になります。何のことはない、廃止に追い込まれたローカル線と同じです。
 今の夜行への需要は、「バスの方が効率的に輸送できる程度の数」になってしまっているのです。


 「寝台列車の料金が高すぎた」といった声も聞き、それはそれで1つの要因とは思いますが、それが全てとは思いません。
 例えば、僕。
 「鉄道好き」であることを差し引いても、業務上での移動においては、夜行であれ昼行であれ、最初からバスは考慮の範囲外です。いくら安くても、時間がかかりすぎること、快適性で鉄道や飛行機より大きく劣ること(天井の低さが決定的)が理由です。
 夜行なら、所要時間は関係なし。到着時刻は考慮に入れますが、100%間違いなく、高くてもゆったりした寝台列車です。移動で疲れてしまっては、目的地での仕事に差し支えますから。

 しかし、「朝早い新幹線(or飛行機)」と寝台列車なら充分、比較の対象。しかも、新幹線、飛行機を選んでしまうことも多々あります。今年1月に、山陽方面へ取材に行きましたが、岡山まで寝台特急「サンライズ出雲・瀬戸」に乗るか「のぞみ」に乗るか迷い、結局、仕事が押して前夜に出発できないことから、「のぞみ」にしました。


 昨年、「まりも」のルポをした時に感じ、記事にも書きましたが、路線の廃止とは違い、列車の廃止は完全な“終わり”ではないと思っています。復活の可能性は、ゼロではないのです。
 世の中は24時間化が進んでいると言われます。いずれ、夜を徹して走る列車が見直される時が来るような気がしてなりません。

 

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