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コラム(バックナンバー)

◆「車内マナー」…?(2009.1月)

 僕が日頃、出かける時は、だいたい東急田園都市線を利用します。
 某駅から乗り込んで、ニコタマ(二子玉川)、三茶(三軒茶屋)を過ぎ。さあて、そろそろ渋谷に着く…という段になると、ちょっと落ち着かなくなります。

車内マナー-イメージ 気にしなければいいんですけど、渋谷到着時に流れる車内放送のワンフレーズが、ずーっと引っかかっているのです。
 ほらほら来るぞ、今日も。
 いやだなあ…ああ、来た。。。


 「車内マナーにご協力いただき、ありがとうございます」


 車内マナーにご協力いただき?
 変じゃないですか?

マナー【manner】:態度。礼儀。礼儀作法。

 マナーには、こういう意味しかありません。
 もちろん態度には「よい態度」「悪い態度」両方があり、「礼儀に叶う」振る舞いがあって「無礼」な振る舞いもあります。
 「態度にご協力いただき…」という意味が分かりません。
 悪い態度を取ったとしても、何らかの態度を取ったということで、協力したことになるのですかね?(笑)

 マナー=よいマナーという前提で考えているのでしょうか?
 それにしても「守る」あるいは「破る」ことしかできません。
 マナーに協力するって?


 これならまだ、分かります。
 「車内マナーを守ることに、皆さん、ご協力いただき…」
 あるいは、もう少し縮めて。
 「車内マナーの保持に、ご協力いただき…」
 いや、もっと端的に。
 「車内マナーをお守りいただき…」
 たぶん、言いたい意味は、こういうことなのでしょう。丁寧にしたつもりで「ご協力」を入れたいばかりに、妙なことになっているような気がします。

 よい車内マナーを守ってほしい(=守ってない輩がいる)
   ↓
 だから乗客のみなさん、各自が守ることに協力してほしい
   ↓
 (東急としての)終点に近づいて、だいたいは守られた。協力してくれて、ありがとう
 乗客一人一人の「ご協力」のおかげです…

 こういう思考経路でしょうか。
 でも、実際に言葉にする段階になって、変な飛躍があります。


  確かにねえ。マナーがなってない人間は目立ちます。「イマドキの若者」ばかりじゃないですよ。年配者の方が目に余ります。
 そう。マナーがなってない人間も絶対、皆無じゃないのに、「ありがとうございます」も変ですけど。

 でも、それはそれで別問題。この放送のフレーズは、正直、「美しくありません」。
 「こちらがスープの方になります」「1万円からお預かりします」
 そんなフレーズと同じ「臭い」がします。


 僕は、言葉はだんだん変わっていくもの、と考えています。
 だから、言葉が「乱れている」とは全く思いません。

 けれど、「美しくない言葉」はあります。不快に思います。
 「〜の方」「〜から」は、丁寧に述べているようで正直回りくどく、敬意がゆがんで伝わり、美しくありません。


 「車内マナーにご協力いただき〜」も、“なんとなくニュアンスで分かる”というレベルのフレーズです。友達同士の会話なら、そんなレベルでも僕は気にしません。
 しかし、列車の中には不特定多数が乗っているもの。きちんと意図が伝わる美しい言葉でなければならないでしょう。
 車内放送です。きちんと言葉を吟味し考えてから使ってほしいと、電車が渋谷に着くたびに思うのです。


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